コラム~女性医学の紹介~

ピル服用中なのに出血「これ、大丈夫?」不安を解消するメカニズムと5つの原因

性成熟期(18〜45歳頃)

2025.12.10

ピルを飲み始めたばかりの人も、長年飲んでいる人も、突然の生理じゃない出血(不正出血)にドキッとした経験はありませんか?

「これ、もしかしてピルが効いてないの?」
「病気なんじゃ…」

と不安になって、慌ててスマホで検索して、さらに不安になった方もいるかもしれません。

ピル服用中の出血の多くは、薬が体になじもうとしているサインや、ちょっとした飲み方の工夫で解決できる、生理学的なメカニズムに基づいた現象なんです。

今回は、あなたが抱える「なぜ出血するのか?」という根本的な疑問を、細胞・ホルモンレベルから徹底的に解説します。
そして、「これは受診すべき!」という危険なサインの見分け方まで、しっかりお伝えしますね。

なぜ出血するの?体内で起きているメカニズムを理解しよう

ピルによる出血の正体は、専門用語で「破綻出血(Breakthrough Bleeding)」と呼ばれます。
これは、あなたが病気になったサインではなく、主に子宮内膜を安定させるためのホルモン供給が、局所的に追いつかなくなっているために起こります。

1. 「薄くなった子宮内膜」が不安定になるから

私たちが飲んでいる低用量ピルは、合成されたエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の合剤です。

 

  • 通常(ピルなし)の生理
    エストロゲンで内膜を厚く増殖させ、プロゲステロンでそれを維持し、最後に両方が抜けることで生理(出血)が起こります。

 

  • ピル服用中
    外から安定したホルモンを供給することで、自分の卵巣からのホルモン分泌をストップさせます。(=排卵停止)
    このホルモンの働きで、子宮内膜は生理のときほど厚くならず、薄い状態で保たれます。(萎縮傾向)

 

問題はここからです。

最近のピルは、副作用(特に血栓症リスク)を減らすために、エストロゲンの量が極限まで少なくなっています。(低用量・超低用量化)
この「薄くてデリケートな内膜」を維持し続けるためには、絶妙なホルモンバランスが必要です。
少しでも足りなくなると、内膜組織の中の微細な血管が耐えきれずに破綻し、少量の出血として現れてしまうんです。
これが、ピル服用中に生理以外のタイミングで出血が見られる基本的なメカニズムです。

2. 「3ヶ月の壁」:体とホルモンの適応期間

「飲み始めの1〜3ヶ月は出血しやすい」と聞いたことはありませんか?

これは、あなたの体がピルという外からのホルモンに慣れるまでの準備期間があるからです。
あなたの体(特に子宮内膜)にあるホルモンを受け取る「受容体」は、急に外からのホルモンが入ってきても、すぐに最適な働き方になりません。
服用開始初期は、受容体や代謝酵素の働きが最適化されるまで内膜が不安定な状態になり、部分的に剥がれ落ちる(Shedding)ことを繰り返します。

これが「少量のダラダラ続く出血」の正体です。
重要なポイントは、この初期の出血は、薬が効いていないわけではなく、むしろ将来的に月経量が減るという治療的メリットへ向かうための通過点である、ということです。
不安に思うかもしれませんが、これはむしろ治療が順調に進んでいるサインだと捉えて大丈夫ですよ。

要チェック!不正出血を引き起こす5つの主要な原因

初期の適応期間を過ぎても出血が続く場合や、突然出血が始まった場合は、他の原因がないかをチェックする必要があります。

主な原因は、大きく分けてこの5つです。

① 飲み忘れ・不規則な服用(最も多い原因)

ピルの成分は、体内での半減期が比較的短いです。
超低用量ピルでは特に、定時服用から数時間ずれるだけで、血中のホルモン濃度が子宮内膜を維持できるレベルを下回ってしまう可能性があります。濃度が急に下がると、内膜が「生理が来るサインだ」と勘違いして、意図しないタイミングで剥がれ始めてしまいます。
これが「飲み忘れによる出血」です。

 

  • 対処法
    アラームを使うなどして、毎日決まった時間に飲む習慣を徹底しましょう。飲み忘れによる出血は、避妊効果の低下にもつながります。

② 薬の飲み合わせや吸収の障害

意外なものが出血の原因になっていることがあります。

 

  • 下痢・嘔吐
    ピル服用後数時間以内に激しい下痢や嘔吐があった場合、成分が十分に吸収されずに体外に出てしまい、実質的な「飲み忘れ」と同じ状態になります。

 

  • 薬物相互作用
    一部の抗生物質や抗てんかん薬、そして意外にもセント・ジョーンズ・ワート(サプリメント)などは、ピルの成分を分解する酵素の働きを強め、ピルの効果を弱めてしまいます。

 

  • 対処法
    他の薬やサプリを飲み始める際は、必ず医師や薬剤師に相談してください。

③ 器質的な婦人科疾患のサイン

「ピルを飲んでいるから大丈夫」は大きな誤解です。
ピルによる出血だと思っていたら、実は背後に別の病気が隠れていた…というケースもあります。

 

  • 子宮頸がん・子宮体がん
    不正出血はがんの初期サインの可能性があります。

 

  • 子宮筋腫・ポリープ
    筋腫やポリープが物理的な出血源となっていることがあります。

 

「今まで順調だったのに、急に出血が始まった」
という場合は、特に要注意です。最後に子宮がん検診を受けてから1年以上経っている方は、これを機に必ず受診しましょう。

④ 性感染症(STI)による炎症

ピルには避妊効果はありますが、性感染症を防ぐ効果はありません
クラミジアなどの性感染症(STI)が子宮頸管に炎症(子宮頸管炎)を起こすと、組織がもろくなり、出血しやすくなります
おりものの色やにおいの異常、下腹部痛を伴う場合は、STIの検査が必要です。

⑤ ストレスと体調不良

過度な精神的ストレスや睡眠不足は、ピル服用中であってもホルモンバランスに影響を与えます。
ストレスが体の自律神経を乱し、間接的に子宮内膜の微細な環境や血管の安定性に影響を及ぼし、出血を誘発する可能性があります。

この出血は大丈夫?緊急度を見分ける4つのチェックポイント

不安な時、まず自分でチェックしてほしいのが、出血の「性状(色、量、痛み)」です。
「この血は大丈夫なの?」という問いに答えるための基準を見ていきましょう。

 

チェック項目

「様子見OK」サイン(機能性出血の可能性高)
「すぐに受診」サイン(Red Flag)

 

1. 色調

茶色〜黒っぽい出血
(古い血液で酸化が進んでいる)

鮮やかな赤色の出血(鮮血)

 

2. 量

ナプキンを汚す程度、オリモノに混じる程度
(少量)

生理のピーク時より多い、1時間に1回ナプキン交換が必要、レバー状の塊が出る

 

3. 随伴症状

腹痛や発熱、おりものの異常がない

激しい下腹部痛、発熱、悪臭のあるおりものを伴う、性交痛がある

 

4. 期間

飲み始めの1〜3ヶ月目に見られ、徐々に減っている

3ヶ月(3シート)を超えても出血が止まらない

特に注意!「痛みを伴う出血」は受診のサイン

量や色に関わらず、「出血」に「激しい腹痛」や「発熱」が伴う場合は、子宮外妊娠(異所性妊娠)や骨盤内炎症性疾患(PID)など、緊急性の高い病態の可能性があります。この場合は自己判断せず、すぐに婦人科を受診してください

まとめ:安心して服薬を続けるために

ピル服用中の不正出血は、ほとんどが深刻な問題ではありません。

 

  • 飲み始め1〜3ヶ月の少量・茶色の出血は、体が適応しようとしている「頑張りサイン」です。飲み忘れに注意して、焦らず継続しましょう。

 

  • 2週間以上続く場合、3ヶ月を超えて続く場合や、出血量が多い、痛みを伴う場合は、必ず婦人科を受診して、がん検診を含めた精密検査を受けてください。
この記事の監修

中村 久基

白山レディースクリニック院長

信州大学医学部卒業。
カナダクイーンズ大学Cancer Research Lab、
東京大学産婦人科医局、NTT東日本関東病院、
長野県立こども病院総合周産期母子医療センターなどを経て現職。
日本産婦人科学会専門医・母体保護法指定医、他。
女性の一生を通じた健康サポートに取り組んでいる。

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