
【医師監修】HRT(ホルモン補充療法)はいつまで続ける?やめどきの目安
2026.03.17
更年期のつらい症状(ホットフラッシュ、不眠、気分の落ち込みなど)を和らげるためにHRT(ホルモン補充療法)を始め、「毎日の生活がとても楽になった」と効果を実感される方は多くいらっしゃいます。 一方で、体調が落ち着いてくると「お薬はいつまで続ければいいの?」「長く続けると副作用やリスクがあるのでは?」と不安に思う方も少なくありません。 今回は、産婦人科専門医の視点から、現在の医学的知見を踏まえ、HRTの継続期間、健康寿命への影響、そして当院の治療方針について客観的かつ分かりやすく解説します
HRTとは?まず基本をおさらい
HRTは英語のHormone Replacement Therapyの略称で、日本語ではホルモン補充療法と呼ばれます。この治療法は、閉経前後に急激に減少するエストロゲンという女性ホルモンを、飲み薬や貼り薬、塗り薬などを用いて少量ずつ補うものです。
更年期に起こるのぼせや発汗、不眠、気分の落ち込みといった諸症状は、ホルモンの減少に体が適応できず、自律神経が乱れることで生じます。これらは個人の性格や忍耐力の問題ではなく、生物学的な変化に伴う身体反応です。HRTによってホルモンバランスの落差を緩やかにすることで、こうした不調を和らげ、日常生活の質を維持することが可能になります。
かつては副作用のリスクが過剰に強調された時期もありましたが、現在は投与量や投与ルートの選択肢が広がり、個々の体質や生活習慣に合わせた柔軟な処方が行われています。更年期を単に「耐えるべき期間」と捉えるのではなく、医学的な選択肢の一つとしてHRTを検討することは、中長期的な健康維持においても合理的な判断と言えます。
HRT「いつまで続ける?」にこたえはない ー 個別判断が基本
現在の日本のガイドライン(日本女性医学学会など)や世界的な基準において、「何歳になったらHRTをやめなければならない」という一律の年齢制限はありません。
かつては閉経後数年で終了すると考えられていた時代もありましたが、現在は、患者さんお一人おひとりの症状や健康状態、治療によるメリットとリスクを毎年評価しながら、継続を判断するのが主流となっています。
当院でも、ご本人のご希望があり、定期的な検査で安全が確認できている方については、閉経周辺期から継続して70代になってもHRTを続けておられる患者様がいらっしゃいます。
HRTのメリット
メリットについてはどうでしょう?
循環器(血管)へのメリット
日本の女性医学・更年期医療の第一人者である若槻明彦先生らの知見をはじめ、近年の研究でHRTが循環器(心臓や血管)に与える良い影響が注目されています。
ここで非常に重要なのは「始めるタイミング」です。
閉経後早期(おおむね閉経から10年以内)の、血管にまだしなやかさが残っている時期からHRTを開始し、約7年といった長期間継続した女性では、動脈硬化の進行が抑えられ、将来の心疾患などのリスクが低下することが示されています。
一方で、閉経から長期間が経過したご高齢になってから「新しくHRTを始める」ことは推奨されません。すでに動脈硬化が進んだ血管に対して急にホルモンを投与すると、逆に血栓症や心血管系のリスクを高めてしまうことが分かっているためです。あくまで「適切な時期に始め、それを継続すること」に意義があります。
健康寿命をサポートする可能性とデータの見方
近年、HRTを長期間続けることによるメリットに焦点を当てた研究も報告されています。
例えば、フィンランドの大規模な調査や、2024年に発表されたアメリカのメディケア(高齢者向け医療保険)のデータを用いた観察研究では、HRTを長期間継続している女性は、使用をやめた女性に比べて心疾患リスクや全死亡率(あらゆる原因による死亡リスク)が低い傾向にあることが示されました。
ただし、これらのデータを見る際には医学的な注意も必要です。70代までHRTを継続できる方は、定期的に医療機関を受診する健康意識が高く、もともと重篤な持病がないなど、長生きしやすい環境にあるという「健康ユーザーバイアス」が働いている可能性が専門家の間で指摘されています。
お薬単独の力で寿命が延びるとは断言できませんが、医師の管理下で適切にHRTを続けることが、女性の健康寿命をサポートする有意義な選択肢の一つになり得ることは確かだと言えます。
骨密度を高める標準治療と、しなやかな「骨質」を維持するHRT
高齢になると骨粗しょう症による骨折リスクが高まります。骨密度が大きく低下した場合は、整形外科などで処方される専用薬(ビスホスホネート製剤など)を使用することが、骨折を防ぐための最も標準的で強力な治療法です。
しかし、HRTにも専用薬とは異なる独自の役割があります。女性ホルモン(エストロゲン)の補充は、単に骨の量(骨密度)を保つだけでなく、骨の内部の微小構造を維持し、しなやかで折れにくい「骨質」を保つ効果に優れています。骨は硬いだけでは折れやすく、しなやかさがあって初めて骨折を防ぐことができます。
将来の骨折予防を見据え、標準的な骨粗しょう症治療薬へ切り替えたり併用したりすることを基本としつつ、ご自身の骨の状態やご希望に合わせてHRTによる骨質の維持を目的として継続することも、医学的に理にかなった選択肢となります。
当院のHRTのお薬選び(長期継続リスクに配慮)
HRTを長期間続ける上で、加齢に伴い自然と上昇する血栓症や乳がんなどのリスクには十分配慮する必要があります。当院ではリスクをできる限り抑えるため、お薬の選び方を工夫しています。
当院で処方するお薬は、原則として「経皮剤(皮膚から吸収させる貼り薬や塗り薬)」と、「天然型」あるいは天然型に極めて近い立体構造を持つ黄体ホルモン薬(ジドロゲステロンなど)を使用しています。
飲み薬とは異なり、経皮剤は肝臓を通らないため、血栓症(血管が詰まる病気)のリスクを上昇させにくいことが分かっています。また、天然型やそれに近い黄体ホルモンは、従来の合成ホルモンと比べて乳がんリスクへの影響が少ないとされています。絶対の安全をお約束するものではありませんが、こうした薬剤を選択することで、より安心して治療を続けていただけるよう努めています。
HRTのやめ方
休薬をご提案する理由
もし「そろそろ治療を卒業したい」と思った場合、数ヶ月かけて少しずつお薬の量を減らしていく「漸減法(ぜんげんほう)」というやり方が広く知られています。急激な症状のぶり返しを防ぐ目的で、多くの施設で取り入れられている方法です。
一方で当院では、やめるタイミングが来た際には、少しずつ減らすのではなく「一度お薬をスパッと休んでみる(休薬する)」という方針をご提案することが多くあります。
お薬を一度休んでみることで、「自分の体がまだお薬を必要としているか」という現在の体調がはっきりと分かりやすいからです。もし休薬してみて、辛い症状が強くぶり返してしまった場合は、無理に我慢する必要はありません。すぐに元の治療を再開していただけますので、ご自身の体と相談しながら判断していくことができます。
年に1回の定期検診
HRTのメリットを享受しつつ、安全に継続するための絶対条件があります。それは「1年に1回は必ず定期検診を受けること」です。
年齢とともに様々な病気のリスクは自然と変化します。年に一度は、乳がん検診(マンモグラフィ・超音波検査)、婦人科検診(子宮頸がん・子宮体がん検査、経腟超音波検査など)、血液検査や血圧測定をしっかり行いましょう。これらをクリアし、毎年医師と健康状態を客観的に確認しながら進めていくことが何よりも大切です。
HRTのまとめ
HRTをいつまで続けるかは、あなたの今の体調と、これからの人生で血管や骨の健康をどう守っていきたいかによって決まります。ご自身の希望と徹底した体調管理のもとで、長期にわたり継続することも一つの選択肢です。
「一度お薬を休んで様子を見たい」「血管や骨のために、検診を受けながら継続したい」など、ご自身の率直な気持ちをぜひ診察室でお聞かせください。
当院では、患者様お一人おひとりのご希望と健康状態に寄り添い、最適な治療の選択肢を一緒に見つけていきたいと考えています
月~金19時、土曜13時半まで診察
- この記事の監修
-
中村 久基
白山レディースクリニック院長
信州大学医学部卒業。
カナダクイーンズ大学Cancer Research Lab、
東京大学産婦人科医局、NTT東日本関東病院、
長野県立こども病院総合周産期母子医療センターなどを経て現職。
日本産婦人科学会専門医・母体保護法指定医、他。
女性の一生を通じた健康サポートに取り組んでいる。
更年期(45〜55歳頃)の他の記事
診療時間
| 診療時間 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ~ | ● | ● | ● | ● | ● | ● | - |
| ~ |
● | ● | ● | ● | ● | - | - |
- 休診日日曜・祝日・土曜午後
- 当院は予約の方を優先して診療しています。
- 受付時間平日9:20~13:00、14:20〜18:00、土曜9:20~13:00
アクセス
東京都文京区白山5-36-9 白山麻の実ビル9F
都営三田線「白山」駅 A1出口より 徒歩1分
東京メトロ南北線「本駒込」駅より 徒歩5分
電話番号 050-1726-8579


