10月18日は「世界メノポーズデー」— みんなで知って、笑顔を増やす日
2025.10.11
はじめに
毎年10月18日は「世界メノポーズデー(World Menopause Day, WMD)」です。
これは、更年期(メノポーズ)について、世界中で関心を高め、この時期をより健康で幸せに過ごすためのサポートを知ってもらうための、世界的な記念日です。
WMDが生まれたのは2009年。国際閉経学会(IMS)が、世界保健機関(WHO)と協力して制定しました。
IMSは、毎年テーマを決め、正しい知識をまとめた資料などを提供することで 、医療専門家や政策立案者に対して、世界共通の「道しるべ」となる大切なメッセージを発信しています。
日本国内でも、更年期以降の人生をより健やかに送るための理解促進活動が活発になっています。
例えば、群馬県渋川市のように、行政が啓発チラシなどで、地域の方々の理解を深める取り組みも行われています。
また、一般社団法人ちぇぶらによるコメディ公演「笑って更年期」のように、笑いと共感を通して正しい知識と前向きなセルフケアのヒントを届ける、ユニークで楽しい活動も広がっています。
更年期って何だろう?心と体の変化をやさしく知る
「閉経(メノポーズ)」と「更年期(ペリメノポーズ)」 の違い
閉経(メノポーズ)は、女性にとって自然な移行期であり 、厳密には「生理が12ヶ月間こなくなった状態」を指します。そして、この移行期全体、すなわち更年期(ペリメノポーズ)は、閉経前後の数年間を指します。
この時期には、卵巣からのエストロゲン(女性ホルモン)が減少し始め、生理の周期が不規則になったり、体に変化が出始めたりします。一般的に、45歳から55歳の間に起こることが多いですが、個人差があります。
ホルモン変化がもたらす多様な症状
女性ホルモン(エストロゲン)の産生が停止すると、体のさまざまなシステムに影響が出ます。一番知られているのは、血管が広がって急に熱くなる、ほてり、のぼせ、ホットフラッシュ、そして発汗といった症状です。
しかし、更年期の影響は、体の不調だけではありません。精神的なつらさも、多くの方にとって深刻な悩みになります。これには、イライラ、気分の落ち込み、不安感、そして夜ぐっすり眠れないといった睡眠障害や、疲れやすさ、集中力の低下が含まれます。
実際、8割以上の女性が何らかの症状を経験し、その中には仕事や日常生活に大きな影響を及ぼすほど重いものも含まれます。
「年齢のせい」だけじゃない!不調を悪化させる複合的な要因
更年期のつらさや症状の重さは、単にエストロゲンが減る量だけで決まるわけではありません。実は、更年期のつらさは、女性ホルモンの変化だけでなく、体の土台の乱れが原因で複雑になっていることが多いと、栄養医学の専門家は指摘しています。
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自律神経の乱れ:
ホルモンの変動は、体温調節や感情を司る脳の中枢に影響を与えるため、自律神経が乱れ、症状を増幅させます 。 -
副腎機能への負担:
本来、副腎は不足する女性ホルモンを一部補う力を持っています。しかし、ストレスや栄養不足が続くと副腎の働きが低下し、この機能がうまく働かず、つらい症状が悪化してしまうのです 。 -
栄養不足と代謝低下:
特に、神経の働きやエネルギー生成に欠かせないビタミンB群などの栄養素が不足すると、ホルモン変化に体が適応する力が弱まります。
この知識があるからこそ、更年期ケアは、ホルモン補充療法(HRT)だけでなく、食事や睡眠、ストレス管理といったライフスタイルや体質を整える、予防的なアプローチへと広がっています。症状を根本から改善するために、とても大切だと考えられています。
「世界メノポーズデー」のテーマから知る—世界の最新更年期ケア
WMDを創設したIMSは、毎年、世界が注目すべきテーマを選んでいます。このテーマを知ることは、世界の更年期医療がどこに向かっているのかを知る「羅針盤」になります。
Table 1: IMSが主導する世界メノポーズデーの直近のテーマ一覧
年 | 主要テーマ | 焦点となった主要な課題 | 関連するIMS資源 |
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2025 | ライフスタイル医学 (Lifestyle Medicine) | 健康的な食事、運動、睡眠、精神衛生を通じた更年期ケアの強化 | White Paper on Lifestyle Medicine |
2024 | 更年期ホルモン療法 (HRT) | HRT処方に関する現在の論争への対処と、バランスの取れた青写真の提供 | White Paper on MHT Controversies |
2023 | 心血管疾患 (Cardiovascular Disease) | 更年期以降の女性におけるCVDリスクと、予防策の啓発 | Leaflet for Women on CVD |
2022 | 認知機能と気分 (Cognition and Mood) | ブレインフォグや記憶障害が実在する症状であることの認識と対処 | White Paper on Brain Fog in Menopause |
日本の現状:更年期の「語りにくさ」を「オープンさ」へ変える動き
一人で悩まない社会へ:啓発活動の広がり
日本では、更年期を個人的な問題として捉える傾向が強く、職場や身近な場所でオープンに話し合える機会がまだ少ないのが現状です。この「語りにくさ」のせいで、一人で症状を抱え込み、苦しんでいる人が少なくありません。
この状況を変えるため、様々な工夫が始まっています。例えば、一般社団法人ちぇぶらによるコメディ公演「笑って更年期」は、更年期をオープンに、前向きに考え、行動するきっかけを作ることを目指しています。
このように、医療機関や行政 の情報提供に加え、コメディのような「軽やかで楽しい」方法を使うことは、話しにくいという壁を低くし、幅広い層に更年期を「自分事」として捉えてもらうための、大切な戦略です。
職場でのサポートは「未来への投資」
更年期は、「女性個人の問題」ではなく、「会社全体で考えるべき課題」だという認識が、世界的に広まっています。
更年期世代の女性は、職場で最も急速に増えている層であり 、症状によるパフォーマンス低下や離職を防ぐことは、企業にとって非常に重要です。症状が集中力や生産性に影響を与える可能性があるため 、職場でタブー視されていると、助けを求められず孤立してしまいます。
企業が理解促進プログラムを導入し、サポートを提供することは、従業員の方を大切にするだけでなく、**ダイバーシティ(多様性)**を尊重し、会社が長く元気に活動し続けるために欠かせない、大切な投資なのです。
自分らしく輝くために:更年期を健やかに過ごすためのヒント
最新の医学的アプローチ:一人ひとりに合った治療を選ぶ
更年期のつらい症状の治療において、HRT(更年期ホルモン療法)は、ほてりや汗の症状を和らげたり、骨が弱くなるのを防いだりするために、最も効果的な方法の一つとして推奨されています。
HRTを選ぶ際は、年齢や閉経からの期間、そして乳がんや血栓症などの個人の健康リスクをしっかり評価した上で、メリットがリスクを上回ると医師が判断した場合に勧められます。
ホルモン療法が難しい、または希望しない方には、それ以外の新しいお薬や、既存の確立されたお薬(SSRI/SNRI)といった非ホルモン性治療も選べます。
専門医とよく相談し、ご自身のニーズに合わせたオーダーメイドのケアを見つけることが大切です。
栄養アプローチ:体の土台を整えよう
2025年のテーマである「ライフスタイル医学」の基盤には、心と体の土台を整える栄養アプローチがあります。更年期の不調は、ホルモン低下に加え、自律神経の乱れ、副腎への負担、そして栄養不足が複合的に関与して悪化するため 、「年齢のせいだから仕方ない」と諦めなくても大丈夫なのです 。
栄養医学では、血液検査で体の栄養状態を細かくチェックし、一人ひとりに合った食事やサプリメントで、体をベストな状態に整えていくことを目指します 。例えば、MHTと併用する場合でも、血栓症リスクを予防するためにEPAや**γ-リノレン酸(GLA)**などの栄養素を摂ることが検討されるなど 、安全でパーソナライズされた治療の可能性が広がっています。
WMDをきっかけに行動を始める:知識を力に変える
世界メノポーズデーは、正しい知識を共有し、公の場で対話することで、社会の意識を変えていくためのグローバルな機会です。国際閉経学会(IMS)は、毎年10月に更年期について「誰かと話そう」と呼びかけています。
更年期を健やかに過ごすためには、正しい知識を持って、自分に合った行動を起こすことが、とても大切です 。もし症状が続く場合は、女性の健康に詳しい専門医を訪ねて、HRTや非ホルモン療法、そして食事や運動といった予防策について相談してみましょう。
職場や家庭では、この日を機に更年期の話題をオープンにし、お互いを理解し、支え合う文化を築くことが、社会全体で健康を向上させるための重要な一歩となります。
おわりに:世界メノポーズデーは未来の自分への贈りもの
世界メノポーズデー(10月18日)は、更年期という移行期を、次の人生における健康的な長寿への転換点として捉え直すための、国際的な運動の中心です。
毎年発表されるテーマの変遷から、更年期ケアは、ほてりなどの症状を抑えるだけでなく、心臓や脳の健康を守り、人生全体を豊かにするための、総合的な予防ケアへと進化していることがわかります。
最新の医学的な知識と、ライフスタイル医学の大切さを知り、症状に対して「歳のせい」と諦めずに 、適切な治療とサポートを求めること。そして、社会全体が更年期に対するネガティブなイメージを取り払い、オープンにサポートし合える環境を作ることが、誰もが健康で活発なミッドライフを過ごせる未来を実現するための鍵となります。世界メノポーズデーは、そのための知識と勇気を、世界中の人々に贈り続けています。
月~土祝19時、日曜17時まで診察
- この記事の監修
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中村 久基
白山レディースクリニック院長
信州大学医学部卒業。カナダクイーンズ大学Cancer Research Lab、
東京大学産婦人科医局、NTT東日本関東病院、
長野県立こども病院総合周産期母子医療センターなどを経て現職。
日本産婦人科学会専門医・母体保護法指定医、他。
女性の一生を通じた健康サポートに取り組んでいる。
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