
【医師監修】低用量ピルで太る?ヒトとサルの臨床データから見る「体重変化の真実」
2025.12.22
はじめに
「ピルを始めたいけれど、太るのが怖い」
「友達がピルを飲んで太ったと言っていた」
診察室でも、副作用としての「体重増加」を心配される声は非常に多いです。
しかし、結論から申し上げますと、低用量ピルそのものに、脂肪を増やす作用は医学的に認められていません。
「でも、実際に太った人がいるのはなぜ?」
その疑問に対し、今回は世界的な臨床データや動物実験の結果を交えて、医学的な視点から解説します。
世界的な調査でも「ピルで体重は増えない」という結論
まずは、人間を対象とした大規模な医学データを見てみましょう。
世界中の医療データを分析する信頼性の高い機関「コクラン・ライブラリー(Cochrane Library)」が、
ピルに関する49の臨床試験を検証した有名なレビューがあります。
この調査では、以下の2つのグループを比較しました。
1. 低用量ピルを服用したグループ
2. プラセボ(成分の入っていない偽薬)を服用したグループ
その結果、「両方のグループの間で、体重の変化に大きな差は見られなかった」という結論が出されました。
つまり、ピルを飲んでいても飲んでいなくても、変わらない人は変わらないということです。
「薬の成分そのものが原因で脂肪が増えるという証拠はない」ことが、医学的にも強く支持されています。
1. 「薄くなった子宮内膜」が不安定になるから
私たちが飲んでいる低用量ピルは、合成されたエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の合剤です。
・通常(ピルなし)の生理:
エストロゲンで内膜を厚く増殖させ、プロゲステロンでそれを維持し、最後に両方が抜けることで生理(出血)が起こります。
・ピル服用中:
外から安定したホルモンを供給することで、自分の卵巣からのホルモン分泌をストップさせます。(=排卵停止)
このホルモンの働きで、子宮内膜は生理のときほど厚くならず、薄い状態で保たれます。(萎縮傾向)
問題はここからです。
最近のピルは、副作用(特に血栓症リスク)を減らすために、エストロゲンの量が極限まで少なくなっています。(低用量・超低用量化)
この「薄くてデリケートな内膜」を維持し続けるためには、絶妙なホルモンバランスが必要です。
少しでも足りなくなると、内膜組織の中の微細な血管が耐えきれずに破綻し、少量の出血として現れてしまうんです。
これが、ピル服用中に生理以外のタイミングで出血が見られる基本的なメカニズムです。
2. 興味深い研究:サルの実験では「逆に痩せた」データも
さらに、ピルと体重の関係については、米国オレゴン健康科学大学(OHSU)で行われた、非常に興味深い動物実験のデータもあります。
人間の生殖システムとよく似た特徴を持つ「アカゲザル」に対し、低用量ピルを約8ヶ月間(人間の寿命に換算すると数年分)投与し、体重の変化を観察しました。
その結果は以下の通りです。
・標準体重のサル:
体重に変化なし
・肥満気味のサル:
体重が減少し、さらに体脂肪率も低下した
この研究により、ピルには「基礎代謝を高める可能性がある」こと、そして少なくとも「肥満を引き起こす要因にはならない」ことが示唆されました。
これらのデータから、医学的には「ピル=太る薬」という説は否定されていると言ってよいでしょう。
それでも「太った」と感じる2つの正体
では、なぜ「ピルを飲んで太った」という口コミや実体験が存在するのでしょうか?
脂肪が増えたわけではないとすると、考えられる原因は主に2つです。
【① むくみ(水分貯留)による一時的な増加】
これが最も多い原因です。ピルに含まれる卵胞ホルモン(エストロゲン)には、体内に水を溜め込もうとする「保水作用」があります。
飲み始めの時期は特に、体が水分を溜め込みやすくなります。脂肪がついたわけではなく、
「水風船のように水分で膨らんでいる状態」に近いため、体重計の数字が増えたり、顔や脚がむくんで見えたりします。
【② ホルモンバランス変化による「食欲増進」】
もう一つの原因は「食欲」です。黄体ホルモン(プロゲステロン)の影響で、生理前のように食欲が増すことがあります。
ここで重要なのは、「ピルが脂肪を作る」のではなく、「食欲に負けて食べ過ぎた結果、脂肪がついた」という点です。
この仕組みを理解しておけば、食事内容を調整することで防ぐことができます。
対策とまとめ
「むくみ」や「食欲」といったマイナートラブルは、体が薬に慣れるための準備期間(順化期間)である飲み始めの1〜3ヶ月に起こりやすいと言われています。多くの場合は3シート目(3ヶ月)を過ぎる頃にホルモンバランスが整い、自然と落ち着いてきます。
【太らないためのポイント】
・塩分を控える:
むくみの敵である塩分を控えめにし、水分排出を助けるカリウム(野菜や果物)を摂りましょう。
・体重計に一喜一憂しない:
増えた分は「水分」だと割り切り、焦って服用を中止しないようにしましょう。
・医師に相談する:
半年以上むくみが続く場合などは、薬の種類が合っていない可能性があります。むくみにくい種類のピルへの変更も可能です。
ピルは生理痛やPMSの改善など、女性のQOL(生活の質)を大きく上げてくれるお薬です。
「太るかも」という不安だけで選択肢から外してしまう前に、まずは一度医師にご相談ください。
月~金19時、土曜13時半まで診察
- この記事の監修
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中村 久基
白山レディースクリニック院長
信州大学医学部卒業。
カナダクイーンズ大学Cancer Research Lab、
東京大学産婦人科医局、NTT東日本関東病院、
長野県立こども病院総合周産期母子医療センターなどを経て現職。
日本産婦人科学会専門医・母体保護法指定医、他。
女性の一生を通じた健康サポートに取り組んでいる。
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